1. 行列計算における高速アルゴリズムの研究
疎行列を係数とする連立一次方程式の求解や固有値計算などの行列計算は,科学技術 計算において最も基本的な部品の一つです。大規模な行列計算を最新のアーキテク チャを持つ計算機上で効率的に実行するために,以下のような観点から研究を行って います。
(1) 並列計算機向けアルゴリズムの研究
共有メモリ型並列計算機を効率良く利用するには,プロセッサ間の負荷を均等化する と同時に,プロセッサ間の同期によるオーバーヘッドをできるだけ削減することが必 要です。また,分散メモリ型並列計算機では,プロセッサ間通信の量と頻度を最小化 することが必要です。本研究では,これらのオーバーヘッドをできるだけ少なくでき る効率的な行列計算アルゴリズムの開発を行っています。
(2) RISCプロセッサ向けアルゴリズムの研究
RISCプロセッサでは,主メモリとプロセッサとの速度差が大きいため,キャッシュメ モリを有効に利用することが性能向上のために必須です。そのためには,データアク セスの局所化,すなわち,データがキャッシュ中にある間にできるだけ集中して演算 を行うようなアルゴリズムへの変更が必要となります。本研究では,主にブロック化 と呼ばれる手法を用いて,データアクセスの局所性の高い行列計算アルゴリズムを開 発しています。
(3) 性能予測および自動チューニング技術の研究
上記のような計算機上で,問題サイズやプロセッサ台数を変えた場合の行列計算の性 能を高精度に予測する技術,計算機アーキテクチャに応じて最適なアルゴリズムを自 動的に選択する自動チューニング技術の研究を行っています。これらは,自動並列化 コンパイラにおける最適化に役立ちます。また,異機種の計算機をネットワークで複 数接続したグリッドコンピューティング環境において,最適なジョブ割り当てを行う ための基礎技術としても今後重要になります。
2. 金融工学計算における高速アルゴリズムの研究
オプションの価格評価,資産運用最適化などの金融工学計算において,実際的な問題 を精度良く解こうとすると,大規模計算が必須となります。そこで,数値計算で開発 された様々な手法を応用することにより,これらの問題を高速・高精度に解くことの できる新しいアルゴリズムの開発を目指しています。
(1) オプション価格評価の高速化
オプションとは,株式,為替,債券などの金融商品を特定の期日(または期間内)に 予め定められた価格で購入(または売却)する権利のことです。オプションを入手す るには対価,すなわちオプションの価格を支払う必要があり,この価格は,ある経済 学的な仮定に基づき,金融商品の価格が従う確率モデルを用いて計算されます。従 来,この価格評価は主に二分木法,モンテカルロ法などの手法で行われてきました が,最近になって,Fast Multipole Methodと呼ばれる数値計算手法の適用により, 計算を飛躍的に高速化・高精度化できることがわかってきました。更に,二重指数型 数値積分公式との組み合わせにより,この手法を適用可能なオプションの範囲をより 拡大できることもわかってきました。本研究では,アメリカンオプション,バリアオ プション,ルックバックオプション,天候デリバティブなど多数のオプションに対 し,この手法を用いて高速・高精度な価格評価アルゴリズムを開発しています。
(2) 資産運用最適化
資産運用最適化とは,資産を種々の株式,債券などにうまく分散して投資することに
より,リスクを最小限に抑えつつ利益を最大化することです。この中で,投資の配分
を動的に変えつつ,ある期間後の利益を最大化する問題は,大量の計算が必要な難し
い問題とされていましたが,最近になって,モンテカルロ法を利用した効率的な解法
が提案されてきています。本研究では,この手法を様々な問題に適用するとともに,
より効率の良い解法の開発を目指します。
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